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2004.08.29

究極のリングス■990221前田日明VSアレキサンダー=カレリン

カレリンズリフト。それはまるで、「プロレス」でのパワーボムのようにきまった。「挌闘技」の試合でこんな技が決まるなんて考えにくい。しかも、地べたで踏ん張っている状態の前田の巨体を持ち上げ・・・ ※未公開作品(1999/2/21リングス横浜アリーナ)

  「前田日明引退試合」「前田日明VSアレキサンダー=カレリン」それは明らかに「特別な」試合である。にもかわらず、それはいつものリングスの光景だった。観客の入りとか声援、マスコミの数はたしかに違ってはいたが、器(うつわ)はリングスのそれだった。

 カレリン、そして前田が「全選手入場式」に登場する。ロシア国家級の重要人物で格闘技戦初登場のカレリン。引退試合の前田。入場式「くらい」はキャンセルしても何ら不思議ではない。むしろ、他の団体であればそうすることも考えられた。しかし、そうはしなかった。引退試合であろうと、世紀の格闘技戦であろうと、この試合は「リングスの試合の一つ」なのである。

 ルールが試合直前に発表される。ここ数試合で導入された新ルール「グラウンド状態での打撃攻撃」こそなかったものの、まるっきりのリングスルール。ロープエスケープでダウン1回分のロストポイント。ダウン3回でTKO負け。このようなロストポイント制が他流試合で使われるなんて、ちょっと記憶にない。けっして「U」系だけのマニアックなルールではなく、「競技の違いを超えて」競い合う挌闘技ルールとして「リングスルール」が定着した一つの瞬間だ。

 両選手がリング上で向かい合う。リングアナウンサーのコール「第7試合」。ファンなら知っている。どの試合も対等に尊重されるリングスには「メインエベント」「セミファイナル」といったコールが存在しないことを。その精神は、前田の引退試合をもってしてもなお貫かれていた。カレリンはリングスロシアというわけではないが、そのセコンドにはヴォルグ=ハンらのロシア勢がまるで「リングスロシアの代表」を送り出すかのように付いていた。これも、リングスの通常の試合であるかのようだ。

 全選手入場式、試合ルール、第7試合のコール、セコンド…ここまで書いてきたことは、試合の本質とはちょっと違う部分である。だけれども前田自身にとっては、とても大切なことではなかったか。「世界最強の男はリングスが決める」というビジョンを掲げ、それにふさわしいファィティングネットワークづくりを進めてきた前田。

 「ごちゃごちゃ言わんと、誰が一番強いか決めたらええんや」かつて前田は新日本プロレスのリングでそう叫んだことがある。1987年のことだ。そして引退試合の後の控え室では「ファイターとしてだけでやってみたかった」と語った。前田の挌闘家としての人生。新生UWF解散といったちっぽけなものじゃなく、「挌闘家として強さを試しあえる」前提(場)をつくるのがいかに大変だったかを物語っている。

 「世界最強の男を決める場」リングスに「人類最強の男」がついに上がる。前田はこの男を「伝説自体がない世の中で、アスリートとしては最後の伝説」と評す。にもかかわらず、この男をリングに上げる快挙に対しても「自分ができることをやってきただけ」と襟を正した。上がるのは、アレキサンダー=カレリン。この実現は何を意味するのか。

 言うまでもない。「世界最強の男はリングスが決める」の体現である。もちろん、強い男とやりたいという前田の野望があってのことだが、カレリンを引き出したのは「リングスとしてのネットワーク」そのもの。前田の中にある「野望」と「理想」の二つが結実した結果と言ってもいい。

 これは「世界最強の男を決める」場としてのリングスの一つの象徴的な到達点。だからこそ、短い時間ではあったが前田はファイターとしてのトレーニングに没頭し、最高の前田日明としてカレリンに向かい合うことができた。厳しいシアトルでの特訓も、この試合での積極的な攻撃も「ファイター」前田としてのものだった。

 ゴングが鳴る。積極的に蹴りで前に出る前田。グラウンドに持ち込まれると不利、なんてことはおかまいなし。なんという正々堂々とした闘いぶりであろうか。これには、元レスリングメダリストの太田章氏も「本当に男気を感じ、感謝したい」と絶賛。逃げつづれば10分間なんてアッという間だっただろう。しかし、密度の濃い10分は前田によってもたらされた。

 カレリンの持ち味が生かされたのも、この前田の積極策があったからこそ。身体がとっくにぶっ壊れていることは、ファンなら百も承知だ。でも、引退試合に向けて行われた過酷なトレーニング。コンディションづくり。「この試合で引退する」という覚悟が感じられた。

カレリンズリフト。それはまるで、「プロレス」でのパワーボムのようにきまった。「挌闘技」の試合でこんな技が決まるなんて考えにくい。しかも、地べたで踏ん張っている状態の前田の巨体を持ち上げるのである。前田を振り回したパワー。前田が築いてきた数々の技も、カレリンの前ではちっぽけなものだったのか。

いや、そうではない。ポイントを先制したのは前田による関節技。確かにカレリンのパワーは驚きに値するものだったが、我々が観たいのはカレリンの「格闘技的な強さ」だった。格闘技には一瞬のスキをねらって勝つ技がヤマのようにある。そういう「強さ」では、前田はカレリンとわたりあっていた。カレリンにはケサ固め以外のこれといったきめ技は存在しなかった。それを証明した、いや「そこまでしかさせなかった」前田にボクは拍手を送りたい。

 究極のリングスという「器」には、紛れもなく「挌闘王」前田の姿があったのだ。■□

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