小川さん、戻ってきてください!■040815小川直也VSエメリヤーエンコ・ヒョードル
特に、五輪から“はみ出す”のみならず、一般マスコミにも取り上げられないプロレス・格闘技界。「何のために闘うのか」への納得感こそが、集客力のすべてである。小川の準決勝進出は、その視聴率や前宣伝のしかたを見ても、プロレス・格闘技ファンのみならず国民がうなるほどのナチュラル・アングルが・・・ ※負けても、ハッスル! 小川直也、PRIDEグランプリに散る!
「あくまでもハッスル(プロレスイベント)を広めるため」という斜に構えた出場理由で、強さの測定場所であるPRIDEグランプリ(総合格闘技最強決定トーナメント)に出場。1回戦でK-1からの刺客、ステファン・レコを一方的に破り、それまで“腰を振る奇妙なポーズ”でしかなかったハッスルポーズが市民権を得る。
ハッスルポーズに乗って巻き起こった、小川直也への圧倒的な声援。それは小川を過去の記憶から開放させ、頂点へと向かわせる追い風となった。過去の記憶。それは、12年前のバルセロナ、8年前のアトランタ。本命として期待されながら、五輪の柔道でことごとく苦杯をなめた小川。マスコミから「精神的弱さ」を指摘された。
試合後に満足にコメントさえできなかった五輪での小川は、もういない。自ら「ハッスル」と叫ぶほどに変貌をとげた2004年の夏。小川直也、人生最大の闘いへ!…小川が試合に臨むまでのストーリーをまとめるとこうなる。
PRIDEグランプリを“裏”に回して世間を席巻していたアテネ五輪においても、長島ジャパン、浜口親子、「谷亮子」としてのメダル獲得といった人間ストーリーは、しっかりと引けていたように思う。スポーツは「筋書きのないドラマ」だが、「筋書きこそドラマ」という逆もまた真なりなのだ。
特に、五輪から“はみ出す”のみならず、一般マスコミにも取り上げられないプロレス・格闘技界。「何のために闘うのか」への納得感こそが、集客力のすべてである。小川の準決勝進出は、その視聴率や前宣伝のしかたを見ても、プロレス・格闘技ファンのみならず国民がうなるほどのナチュラル・アングルがあったと言えよう。
アングル。この言葉はしばしば、「プロレスには筋書き(アングル)がある」というふうに、プロレスのショー的要素を指摘する言葉として使われる。今回の小川のプライド参戦も、人によっては「アングルがある世界で戦っている小川の、勇気あるアングルなし世界への参戦」と見ているのだろう。
本来、闘う理由に“筋”が通っていれば、プロレスであろうと総合格闘技であろうと面白いものだ。「何のために闘うのか」への納得感こそが、選手のモチベーションのすべて。筋が通っていない背景の下では、選手も観客も十分ハッスルできない。本稿では、この「選手のモチベーション、ファンの集客」を左右するほどのリアリティあるストーリーを、「ナチュラル・アングル」と勝手に名づけた次第だ。
わざわざこの言葉を出してくるのには、理由がある。小川のPRIDE準決勝進出には、「ナチュラル」とは言えないアングルも存在したからだ。プロレス興行「ハッスル」では、モンスター軍を率いる高田総統が(小川率いる)ハッスル軍を査定し、総統の判断によっては「小川をハッスル出場停止にする」ことがあるという。今回の小川のPRIDE登場は、ハッスル的世界では、「高田総統が課したハッスル出場査定試合」という設定になっている。デスラー総統のような高田延彦のコスプレによって展開されるコミカルな世界は、一部の熱狂的ファンをつくり出しつつはある。
ただ、このアングルは地上波では完全無視され、一方で、冒頭であげたような小川のナチュラル・アングルによって国民的なムーブメントをつくり出したわけだ。市民権を今後得そうにないとみる「ハッスル否定派」は、怪物・小川がハッスルに出場することを歓迎はしない。もちろん、こういう意見を小川に対して発信するのは失礼なことは重々承知。小川はかえって「うるさい! ハッスルを夢のある世界へと押し上げるんだ」と反発するだろう。
反発を覚悟で私が言いたいのは、たった一つ。「小川さん、ナチュラル・アングルのプロレス界へ戻ってきてください!」。
小川直也のプロ格闘技デビュー戦は、1997年4月12日、橋本真也(現・ゼロワン)を相手に行われた。新日本プロレス、東京ドーム大会のメインエベント。当時絶対的なIWGP王者だった橋本をスリーパーホールドで破る。このときにも、アマチュアの王者とプロの王者が闘うナチュラル・アングルのもと、ファンは熱狂し、橋本の敗北に傷つきもした。この橋本との抗争は、テレビ朝日で「橋本真也、負けたら引退!」という特番をも生んで、物議をかもすまでに至った。
その後、小川の主戦場は、橋本真也の主宰するゼロワンへと移るが、ここでも全日本プロレスの川田利明とのシングルマッチなど、ナチュラル・アングルのもとに十分ファンを熱狂させる闘いを小川は繰り広げた。
「ファンに本当の夢を見せることができるのはプロレス」というのが、小川の胸の中にある主張。その主張を実現する場をプロレス興行「ハッスル」として提供し、小川を主役に抜擢しているドリームステージエンターテイメント。一方で、「PRIDE」の主催者も、DSE。小川とDSEはある種の運命共同体であり、小川の身の振り方もなかなか見えづらい。
しかし、「ファンに夢を見せることができるプロレス」は、日本の伝統的な「強さを披露しながら闘う」プロレスであり、現行路線のハッスルとは別のところにあると思うのだ。新日本プロレスやノアを中心に繰り広げられている伝統的プロレスで活躍するプロレスを見たい。そう思うファンは、私だけではないだろう。
「小川さん、ナチュラル・アングルのプロレス界へ戻ってきてください!」
まったくもってベタな、気持ち悪い、小川へのラブレターになってしまったが、これが今回のPRIDEでもらった感動への、私なりの回答としたくなったわけで。
「ワンランク上の世界で自分を試してみたい」
小川はプロ格闘家の転向記者会見で、そんな名言を残した。そこでの「ワンランク上の世界」が具体的に何だったのかは、小川自身にしかわからない。ただ、その中身は、「ファンに夢を見せることができる」かつ「ファンから追い風をもらえる」闘いであると思う。■□
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