余裕のないドラマ■970412&0503橋本真也VS小川直也
ふだん着のプロレスは、勝つためだけを目的としない。何がしかのテーマ達成がファンの感動を呼ぶ。レスラーはかっこをつけがちだし、逆に「それでも本気なのか?」と勘繰らせてしまうシーンもある。ところが・・・ ※バーサス創刊第1号収録分を再掲載。
よくプロレスラーが異種格闘技戦にのぞむとき、ファンは「プロレス技で相手を圧倒する」ことを期待する。アントニオ猪木が柔道家のウィリアム・ルスカをバックドロップで葬ったシーン。武藤敬司が高田延彦を足4の字固めで仕留めたシーン…。
世間の中でのプロレスのポジションを考えれば、私たちがそんな結末を求めるのは当然な流れだ。そして4・12決戦前、橋本真也のコメントで私の心に最も残ったのはコレだった。
「関節技じゃあオレの方が上だよ。当たり前だよ。いろんなことをやってもしょうがないから。自分の闘いをしたい。自分のレスリングを出せれば一番いい」
橋本は「プロレスの怖さを教える」とも言った。私は勝手に橋本に期待した。柔道にないキックやチョップで勝負に出るより、柔道での土壌に近い部分をかすりながら、グラウンド技術で小川を圧倒するのだろうと。
4・12東京ドーム決戦。柔道着でのスポーツマンらしさをまとい、獲物を狙う目つきで入場してきた小川が観客の気持ちをとらえる。橋本は勝って当たり前。小川に頑張ってもらわないと、試合がつまらなくなる。ドームに「オガワ」コール発生。
橋本は確かに、プロレス技であるバックドロップを相手にきめた。元柔道世界王者に対し、堂々の柔道技「払い腰」も痛快だった。小川が逃げているように見えるほどの、袈裟斬りチョップとキックの雨あられ、それも燃えさせてくれるシーンとなる。
ところがグラウンドの展開で橋本は、まったくなすすべなしという有り様。アームロック、三角絞め、腕十字…そしてヒザ十字固めまで。これらをなんと、すべて小川の方が仕掛けたのだ。いったいどういうことなんだ、橋本!
勝つことよりも高いレベルをめざしたレスラーが、中途半端な形でしか目標を達成できず、最終的に裸絞めで足元を掬われる。勝敗結果(小川勝利)もショッキングだったが、それ以上にグラウンドの攻防で優位に立てなかったことが、私は悔しかった。
正直、私はここで、武藤の出陣を期待した。グラウンド技術が新日本ナンバーワンという呼び声も高く、グラウンドで高田を圧倒した姿が目に浮かぶ。「再戦? なに負けた男がガタガタ言ってんだ。オレが橋本と闘う!」なんて言ってほしい!
それができないとしても、5・3再戦への特訓として橋本が武藤をスパーリングの相手に呼び出し、グラウンドの原点に戻るというのはどうだ? 「やはりプロレス本来の力で勝ちたい。だから、武藤頼む!」それくらいの覚悟が橋本にほしいと思った。
なのに橋本は、5・3直前になんと極真空手の黒澤浩樹を呼び、キックとチョップの強化(つばめ返しの開発)。もちろん、他の選手がシリーズ中で駆けつけられない事情をわかってはいるが…。
5・3大阪ドーム。私は寸前まで迷った際に、行かなかった。試合後への速報で、橋本がキックで小川をTKOしたことを知る。やはり、蹴りで勝つにとどまったか。その時点でそう思った。
しかし、TV観戦した小川VS橋本には絶句した。橋本の打撃技と小川の投げ技・関節技が、まさに一進一退。“および腰”の小川はもういなかったし、橋本が投げ技を放つチャンスもない。お互いが前へ前へと出ていく。
もはや橋本は、チョップの連打とキックの連発でしか勝機を見出せずにいた。これを想定しての特訓だったのか、試合中にこうせざるを得ない状況に追い込まれたのか、それはわからない。最後は、衝撃の顔面蹴り。
これまでのプロレスの流れから言っても、過去の橋本の闘い方から見ても、あの蹴りがギリギリの判断の中で出たことは間違いない。試合後に「(蹴りはフィニッシュ前のダメージを与える程度にしておいて)あのまんまボクは三角絞めか、腕ひしぎに入りたかった」と武者震いしながら語った橋本。
ふだん着のプロレスは、勝つためだけを目的としない。何がしかのテーマ達成がファンの感動を呼ぶ。レスラーはかっこをつけがちだし、逆に「それでも本気なのか?」と勘繰らせてしまうシーンもある。
ところが5・3決戦は、そんな邪心も、プロレス技へのこだわりも、闘魂伝承問題も入り込む隙はないほどに昇華した闘いとなった。こんな命がけの闘いを観れた私たちは幸せだし、あの橋本の余裕のなさこそが私にとって最大のドラマだった。■□
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