天才柔道家からレスラーへ■970412&0503橋本真也VS小川直也
中村=文 では、小川はどのようなスタイルで柔道をしていたのかというと、左組みで必ず相手の奥襟を持ち、頭を下げさせてガンガン攻め、3分くらいたってから相手がグロッキーになったのを確認してから仕留めるという“いやらしい柔道”で・・・ *バーサス創刊第1号の原稿を再録。
私は何を隠そう柔道参段である。そんな私が先日の4・12東京ドームおよび5・3大阪ドームにおける小川の活躍について、少し柔道寄りの話になってしまうが感想として述べていきたいと思う。
まず、はじめに一言。小川は柔道においては天才だった。オリンピックでは金メダルこそ逃したが、87年世界選手権無差別級では史上最年少優勝を果たしており(この点においては、あの世界の山下泰裕よりすごいのである)、そして次の89年世界選手権では無差別・95kg超級との二階級を制するという快挙を成し遂げた。また全日本選手権で7回優勝(これは山下の9連覇に次ぐ)している。
では、小川はどのようなスタイルで柔道をしていたのかというと、左組みで必ず相手の奥襟を持ち、頭を下げさせてガンガン攻め、3分くらいたってから相手がグロッキーになったのを確認してから仕留めるという“いやらしい柔道”であった。主な仕留め技としては、強引な内股、強引な小外掛け、強引な谷落とし(今回の試合前に開発した竜巻谷落としなんていうきれいな技ではない)、強引な掬い投げ、そして最後に寝技である。しかしこれらの技は、襟があっての賜物であった。
にもかかわらず今回の相手・橋本は、上半身真っ裸である。私は4・12での小川の勝利はまずないと思っていた。
ついにやってきた4・12東京ドーム。私は初めて生でプロレスを観るため足を運んだ。ここで、私の予想は思いっきり外れた。確かに立ち技においては殴る・蹴る等の打撃系の技を完全にマスターしていない小川にとってかなり不利であろうし、また投げ技の際、相手をつかみづらかったのも同様であったと思う(現に目立った技として、掬い投げと大外刈りしかなかった)。
そして橋本は、小川がリング上に立っている間は、胸板を砕かんばかりの重い蹴りと、鎖骨を折らんばかりの袈裟斬りチョップを浴びせる。あげくの果てには、橋本がかなり美しい払い腰を披露する始末。まったく小川が攻撃をする機会を与えないという一方的なペースで試合が進行していた。
しかし、試合の流れを変えたのが、小川が得意とする寝技であった。小川は身長193センチ、体重130キロというとてつもない巨大な身体(私は一度だけ目の当たりにしたが、「山のような」とか「熊のような」という表現が適当であると思う)ではあるが、一度寝技に入ると水を得た魚のように的確に、かなりのスピードで相手を仕留めることができる。この寝技があったから今日の小川があると言っても過言ではない。
橋本に対して腕絡み(プロレス技ではアームロック)や十字固めがかなりきまっていたのは、その技に入るプロセスとして“柔道で培ってきた寝技”が生きたのだと思う。そしてとどめの必殺技の裸絞めで勝利したのであった。私はある意味では予想は外れたものの、当然の結果になったのだと思った。
何はともあれ小川は橋本に勝利した。しかし、現在のIWGPチャンピオンは誰がなんと言おうと橋本なのである。ここで小川に負けっぱなしでは、IWGPチャンピオンの名に傷がつく。
そこで向かえた5・3大阪ドーム。チャンピオンとして維持の現われでもあるベルトをかけた闘いによって、前回と同じパターン(裸絞め)に入られた。橋本は切れ、側頭部へのローキック一発でTKOする結末を迎えた。
プロレスが好きであるが、一柔道家としては小川に勝ってもらいたい。私はこの2連戦を複雑な心境で観ていた。いちおう1勝1敗のタイになったわけだが、これからは、猪木・長州らの指導を受け、新日本プロレスの台風の目として活躍することを切に願いたいものである。そしていつの日か小川が柔道着を脱ぎ、レスリングスタイルの試合を早く観たいと思っているのは、私だけではないであろう。■□
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