異色!小川vsムタ プレイバック■970810新日本・名古屋ドーム
~ムタの意味・上級編~ >>「初級編」から読む
PRIDEやハッスルで注目されている小川直也が、あのグレート・ムタと闘ったことをご存知だろうか。名古屋ドームのプロレスこけら落としは、1995年8月10日新日本プロレスによって行われた・・・
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いま読み返しても、このプロの世界に懸ける小川の覚悟や姿勢が垣間見えます。ぜひ、ご覧ください。 【長文】
中野&坂井=テーブルトーク
名古屋ドームのプロレスこけら落としは、1995年8月10日新日本プロレスによって行われた。3大タイトルマッチや長州力vs藤波辰爾など好カードが目白押しだった中、文句なしのトップインパクトを放ったのが、グレート・ムタvs小川直也の異種格闘技戦。およそルールにのっとった格闘技戦からは遠いイメージのあるムタが、元柔道世界王者を手玉に取ったのだ。数々の意表を突く反則殺法はもちろん、柔道家顔負けの払い腰。そして、豪快な巻き投げ。最後は、小川の三角締めを毒霧で切り抜けたムタが、急所蹴り→エルボードロップ→腕ひしぎ逆十字でTKO勝ち(6分39秒)。超異次元対決を振り返る。 ※バーサス第2号より再掲。
■どっちが強いのかという結論を見せない
・・・謎かけが根底にある。
◆坂井 橋本真也vs小川直也観戦記でも書いたんだけど、橋本が小川に負けたとき、ボクは武藤敬司の出陣を期待したんだよね。やっぱり橋本は負けちゃったわけだから、次は武藤が出陣してもいいんじゃないかって。と同時に、武藤なら小川とどう闘うか観てみたい気持ちが強かった。そこからやや時間がたってグレート・ムタvs小川が決まったわけなんだけど、「ムタ」でやるとなるとあんまり期待しなかったなぁ。
●中野 5・3大阪ドーム(vs橋本第2戦)でとりあえず小川の試合って、プロレスvs柔道という図式からは一段落しちゃったみたいな感じがするね。これからは柔道家とかいうんじゃなくて、これまでのプロレスのリングでの実績が彼のキャラクターになっていく。今後は小川という新しいキャラクターを利用した試合が組まれていくんだろう。ムタ戦はその第一歩。それにしてもとんでみないのと当たっちゃったね、小川は。
◆坂井 ムタの試合って当たり外れがあるじゃん。だから期待してなかったぶん、ボクはすんごい衝撃をこの試合から受けたね。でも、いま思えば、「オレならvs小川をこうやって闘う」っていう武藤なりの主張を、この試合で展開したかったんだろう。それをほぼ無言で実行したところが、武藤としての有言実行よりもインパクト大だった。
試合のほうはというと、マスコミでも書かれていたとおり、ムタの独壇場。この試合の醍醐味というのは、実にプロレスらしいというか、“結論”を見せないんだよね。本当はいったいどっちが強いのかという点が、誤魔化されたまま終わる。黒帯を奪っての首締め、毒霧、金的蹴り、指取り腕ひしぎ・・・そういった反則技をもし使わなかったとしたら、果たしてムタが勝てたのか。いや、でもあのムタの投げっぷりからするとけっこう勝てるんじゃないか。そんな謎かけが根底にあると思う。
●中野 反則技はどちらかといえばやっぱり使って欲しくなかった。でも「反則技を使ったから勝ったんだ」という印象はさほどなかったし、使った反則で「ない」技は一級品だったしね。序盤に出した腕ひしぎ逆十字のポジション取りも抜群だったし、巻き投げは柔道にない技なんだけど小川は見事に投げ飛ばされた。
しかし、ここで思うのは小川という選手のキャラクターの特異性。小川はムタが反則をしてくることを認めている。その上で勝たなければいけないんだと覚悟している。プロレスというジャンルの特殊性、また尊厳を認めた他種格闘技選手。こんな選手がプロレスラーに真っ向勝負を挑んでくるのは新日本では初めてだよね。FMWでは前からあったけど(レオン・スピンクスとか)、小川はそれとはまた違う。この世界でやっていく覚悟が感じられるし。
◆坂井 何しろ、プロレスを「ワンランク上の世界」と認めて入ってきているわけだから、覚悟は相当なものだと思うよ。「プロとしての闘い」というものをちゃんと考えていることがわかるんだよね、インタビュとか読んでいると。柔道家の“進路”としてプロレスラーも有りだということを示す・・・みたいなことも言ってたじゃない。
中野クンの言うとおり、格闘技戦なんだから反則オンパレードには理不尽さを感じるのが普通。ところがもう、そんなものはこの試合では吹き飛んじゃったね。それは小川や名古屋ドームの観客というだけのレベルじゃなくて、もう翌朝のスポーツ新聞まで「小川にプロの洗礼」って扱い。あだんはルールにのっとったスポーツ中心に扱っているのに、ムタはムタでしっかりプロとして認めて報道しちゃっている。スポーツ紙も面白いもんだ。
●中野 異種格闘技戦をやるのって「プロレスが最強の格闘技であることを証明する」ということが表向きの理由だった。でも、それは実はプロレスファンに対してではなく、プロレスを八百長などと評している対世間に対してプロレスの凄みをアピールすることが目的だったんだよね。アントニオ猪木のやってきた13戦目までの格闘技戦はそうたった。
しかし、あの時代から時間がかなりたって、(ボクも含めて)世間は価値観の持ち方も変わってしまった。世間は他人の価値観に対して干渉しないどころか、いたずらに寛容になってしまった。ボクはね、坂井クン、プロレスが最近多くの一般スポーツ紙に取り上げられている状況さえあまり素直に喜べないんだ。
◆坂井 へぇ。
●中野 でも、基本的には嬉しいけどね。
◆坂井 ガクッ。
●中野 (笑い)最近はプロレスにおける「対世間」というテーマの本質が見失われている気がするんだよ。プロレスというジャンルにさえ世間は寛容になった。だってさ、そもそも一生懸命プロレスを応援している人に対して、あれはインチキだなんて主張する必要なんてなかったもんねぇ。プロレスファンであることを公言することさえためらった時代、プロレスファンはこの次元で世間に認められることを望んでいなかったような気がするんだけどね。
■この時代にマッチした異種格闘技戦の
あり方の一例見せた
◆坂井 なるほどね。もしかしたら猪木の背負っているものは、そういう過去の時代なんだろうし、武藤もそれを感じてうっとうしくてしょうがなかったんだろうな。やたら定義とか筋とかにこだわるんじゃなく、ええかっこしいでもなく、試合自体でいきなり面白いものを見せて観客や相手を手のひらに乗せるっていう・・・そんなプロレスを武藤はやっていきたいんじゃないかな。異種格闘技戦とか、ルールとか、スポーツ紙と・・・そんな枠組みをイッキに超えたモノを、武藤はまた見せてしまったんだな、この試合で。こういう卓越したセンスを武藤とムタの両方の顔で使い分けることはすごいと思う。
●中野 そうそう。この時代にマッチした異種格闘技戦のありかたの一例を見せたんだよ。エンターテイメントとしてのプロレスを観客に存分に提供しながら。それにはかなりの技術、それなりの強さが当然必要だった。他のレスラーではできない芸当かもしれないね。
ところでボクは最後の指取り腕ひしぎはムタがやった反則の中でいちばんひどいものだったと思うんだけど。指をあんなふうに取られたら、ヒジを曲げたり腕をねじったりして技から脱出することは絶対にできない。
◆坂井 そこも面白いんだよね。腕ひしぎに入った時点でムタの勝ちは確定なんだけど、さらにアレンジしてるわけ。指を取ることでね。小川は返すどころかもがくことさえできない状態。つまり、腕ひしぎで決まりと見るか、指まで取ってるから返せないのか・・・そこんとこの答えを見せないわけ!
●中野 しつこいねぇ(笑い)。いゃあ、あそこはやっぱりアレで決まりなんだけどどうしても勝たなきゃいけないから絶対策をとったんだよ、ムタは。というより武藤は。どうしても負けられないからあの技を出したのさ。世間はスポーツ新聞をもって結果だけしか見ないからね。それが猪木の格闘技戦に通じる対世間の部分。スケールはかなり違うんだけど、モハメッド・アリにエルボーを叩き込んでいったシーンやモンスターマンにめちゃめちゃラフ攻撃を仕掛けたシーンを垣間見たね。
◆坂井 小川って寝技が得意な柔道家なわけじゃん。だから、いろんな「もしかしたら」を持っている。小川にとってのムタも同じ感じじゃないのかな。こういった緊張感っていうのは、お互いの領域の技術どうしが醸し出すのが普通なんだけど、毒霧をはじめとする反則攻撃がムタの“技術”に入っている図式が新鮮だよね。
あと、最近の試合は白黒をつけることでの納得感はあったけれど、この試合は“それ以上”のものを強く感じてしまった。そう、勝敗がつくっていう“部分”においては、金曜夜8時(にプロレスが放映されていた)の時代からいうと革命的にプロレスが進んでいるわけなんだけど、勝敗をつけつつ次へつなぐ奥深さを見せつけられると、またまたボクらはうなってしまう。
名古屋まで行った甲斐があったよ。中野クンと名古屋ドームで一緒に観るっていうのも不思議だったけど。
●中野 お好み焼き、うまかったね。
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