GIという矢は世間に刺さったか?■040815新日本プロレス
連日のようにGIが盛り上がった要因として、佐々木健介、高山、鈴木といった外敵の存在は間違いなく大きかった。高山は試合後に倒れこんで緊急入院するほどの激闘を・・・
新宿で天山優勝に乾杯しながら、ついつい気になって電話をした8月15日の夕刻。PRIDEグランプリの中継を自宅で観ているであろう会社の先輩に投げかける。「小川は勝ちましたか?」と。
アテネ・オリンピックに沸く日本列島で、極地的に、プロレスと格闘技を股にかけた興行戦争が起きていた。総合格闘技のPRIDEは、さいたまーパーアリーナで。プロレスの老舗・新日本プロレスは両国国技館で。
しかも、シチュエーションまで似ていた。総合格闘家ベスト4によるワンデイ・トーナメントが、この日のPRIDE(PRIDEグランプリ決勝)。プロレスラーベスト6によるワンデイ・トーナメントが、この日の新日本プロレス(GI(ジー・ワン)クライマックス最終日)。どちらも最強決定まで持ち込むという、いちばんおいしい大会だ。
新日本プロレスの場合、GIといった大きな興行の日程は1年前くらいから決まっているが、さすがにPRIDEに決勝戦をぶつけられて策を考えたのだろう。「最終日は決勝しかやらず、その前日に準決勝を済ませておく」というここ数年馴染みの興行形式を、「最終日に決定トーナメント」形式に切り替えて臨んでいた。
戦争なのだ。持てる力をすべて出し切る腹づもりだった。そして、ドラマは待っていた。昨年優勝者の天山広吉が、「出る杭」として期待された新闘魂三銃士(中邑真輔・柴田勝頼・棚橋弘至)を3タテ。「メインを張り続けられるかどうか」という成長途上にある後輩たちの持てる力と技を引き出しきったうえでの優勝である。しかも、天山の試合運びは、昨年よりも格段に安定し、堂々としたものだったのだ。
こうして新日本プロレスは、看板シリーズのGIクライマックスで地力を見せつけた格好となる。ただ、帰省を兼ねてGIの多くの試合を見る機会に恵まれたボクの目には、リング上の熱い闘いとは裏腹に、プロレス人気が磐石ではない事実も映った。
8月8日の大阪府立体育会館では、全盛期の新日本プロレスよりも観客席のひな壇の列が明らかに少なく、かろうじて満員発表はしたものの部分部分の空席は目立つ。かつて武藤敬司(現・全日本プロレス)に永田裕志が挑んでいたころのGIは、ひな壇列がもっと多かったし、超満員だったし、大阪府立体育会館だけで2連戦をやっていたものだ。
今年は翌日に、大阪からでも観戦に行きやすい神戸ワールド記念ホール大会で日程が組まれていた。会場に試合時間前に行ったが・・・試合開始定刻には100人くらいしかいなかった。ホント、笑い事じゃなく。場所的(神戸ポートピアランド)にも、日程的(平日である月曜)にも、難しい面はあったのだと思う。それでも、前日の大阪大会でさんざんぱらあおった効果か、30~40分たって客席が徐々に半分くらい埋まっていった。そこまで開演を引っ張って、選手入場式。目玉の高山善廣VS金本浩二が高山の欠場で吹っ飛んだことが試合前に発表され、暗い影を落とす。第1試合は、矢野通と長井満也のシングルマッチ。なんとか観客に火をつけようとする長井の姿勢が胸を打つ。神戸大会のメインは、蝶野正洋VS永田。セコンドに介入させながらの蝶野の苦し紛れの勝利だった。大丈夫か、GI。
8月12日、金曜日に両国国技館に上陸。恒例のラスト両国3連戦スタートだ。残念ながら、多くの升席が2人ずつしか座っていない(通常、ひと升4人が定員)。発表人数公称は9000人。空席も目立つ。かつてのGIでは、この3連戦初日の金曜の両国を、公式戦の長州力VS橋本真也(現在、両選手とも別団体へ転出)により満員にしたこともあった。そのころからは見劣りする客席ながら、リング上では、蝶野が鈴木みのる相手に踏ん張った。シャイニング・ケンカキックでフォール勝ち。
8月13日。両国国技館2日目。升席は前日同様2人ずつ座っているところが多いが、空席は前日より明らかに減っている。前日に続いてメインには鈴木が抜擢された。永田との顔合わせもさることながら、この日までのGIでの鈴木の戦いぶりから考えると、当然だろう。ここで、両国国技館に追い風が吹く。非情なまでに相手を叩き潰す永田の戦いぶりに対して、観客が大きな「みのるコール」。逆転の鈴木の腕十字が決まった。
8月15日。両国国技館最終日。文句なしの超満員。升席もきっちり4人がけ。PRIDEグランプリを向こうにまわし、プロレス好きの観衆で埋め尽くされた会場は、第1試合の中邑VS蝶野から最高の盛り上がり。こうなると、蝶野の反則暴走も愛嬌だ。そして、ドラマは冒頭で触れたように、天山優勝へと流れていった。
そのあとに観戦仲間と新宿に移動。ビール片手に携帯で、先輩に連絡をとったわけである。「小川は勝ちましたか?」と。でも本当は、「小川に勝ちましたか?」とボクは聞きたかったのかもしれない。元柔道世界王者の小川直也は、試合後のハッスルポーズが、ちょっとしたブームになっている。小川がジャイアント・シルバに勝ったPRIDEグランプリ2回戦の地上波放送(6月)は、放送週のフジテレビ視聴率の1位を取っていた。
そんなPRIDEグランプリが、今度は「決勝戦」。どれくらい盛り上がったのだろう。それが知りたかったのだ。しかし、先輩の電話は留守電。しかたなく携帯で結果を調べてみる。小川はエメリヤーエンコ・ヒョードルに秒殺されていた(54秒、腕十字でギブアップ負け)。その場で知ったのはそれだけだが、メインエベントまで「選手の負傷で無効試合」という散々な結末。想像するに、ちょっと不満の残る大会だったことだろう。
翌日のスポーツ新聞で結果を見たときには、ボクは新日本プロレスの興行戦争勝利を感じた。だが、どうだろう。後日、フジテレビの放送で、小川の試合を見る。いや、試合というより、試合後の小川のハッスルポーズを、だ。涙をこらえながら、小川は「負けてもハッスルするぞー」と、ここまで後押ししてくれた観客への感謝をあらわすべくポーズを決める。ハッスル、ハッスル!
…この興行戦争には、いろんな総括ができるだろう。興行単体で見ればプロレス(新日本プロレス)の勝利とも言えるし、小川が注目されたということは「PRIDEの中でもプロレスが勝利した」とも言える。よく「総合格闘技はプロレスを食い物にしている(客寄せとしてプロレスラーを出場させる)」なんて言われてきたが、逆に小川は「PRIDEを利用して」注目を集めた。
ただ、PRIDEより新日本プロレスを選んだボクにとっては、「新日本プロレスに宿題が出た」興行戦争のような気がした。
連日のようにGIが盛り上がった要因として、佐々木健介、高山、鈴木といった外敵の存在は間違いなく大きかった。高山は試合後に倒れこんで緊急入院するほどの激闘を、健介相手に繰り広げた。ふてぶてしいことこの上ない鈴木に対して公式戦最終日に起こった「みのるコール」も象徴的だ。鈴木は他の選手に対して言う。「毎日がGIのつもりで試合をしろよ」。
新日本から多くのレスラーが転出し、それがプロレス界の人気低下につながっていると言われている。しかし、GIで見せたような緊張感や迫力が継続すれば、絶対にプロレスに再び火がつく。「PRIDEよりも面白いんじゃないか」という記憶を、多くのファンに植えつけるチャンスだってある。その感触をたくさんの新日本のレスラーがつかんだはず。
最後の優勝決定戦は、外敵に頼らず所属選手の世代闘争で締めたGI。PRIDEに傾きつつある世間に対して、しっかりとした矢は放たれた。新日本プロレスに対して出された「夏休みの宿題」には、この矢を何本も放ち続けなさいと書いてあった。けっしてGIを「打ち上げ花火」に終わらせてはいけない。そしてボクは、全盛期のGIクライマックスの熱気が再現される日を待ち続ける。■□
« 最強伝説への架け橋■950402夢の懸け橋《「週プロ大賞」受賞作》 | トップページ | 選手との交流戦◆カクトウログ »















































