田村潔司、柴田勝頼の敗戦総括/HERO’S
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プロレスラー・田村潔司、柴田勝頼が敗戦。船木誠勝が復活宣言。プロレスファンにとっては落胆と希望がみえたHERO’S横浜アリーナ決戦。大会から1週間がたった。
・ 2007.07.16 カクトウログ: 7・16HERO’S横浜アリーナ、速報観戦記まとめ
次につないでいくためにも、現実に目をそむけてはいけない。いくつか技術論に踏み込んだ検証がされている。田村潔司と柴田勝頼の敗戦について、その記述を拾っておく。
田村潔司。秋山成勲との対戦を希望している関係上、「2006年の試合で秋山に判定負けしている」金泰泳は、破っておかなければならない相手だったが・・・。
▼第8試合=85キロ契約
△田村潔司(2R判定 ドロー(0-1))金泰泳△
◎延長 ×田村潔司(延長R判定0-3)金泰泳○
[試合経過]
この試合、グラウンドに持ち込めば田村が圧倒的に有利だと思っていた。勝利シーンに近づくように、田村は何度もUWF流両足タックルで金を倒しまくる。だけれども、テイクダウン後になると、技に入れず膠着する。いったい何が起きていたんだろう?
携帯サイトkamiproHand7/18更新分「橋本宗洋の水曜コラム」から。
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金は空手、K-1時代からその格闘センスを絶賛されてきた選手である。加えて言えば、総合格闘技を金のためでもリングが恋しいからでも目立ちたいからでもなく“やりたくてやっている”選手なのだ。K-1は2000年に引退し、現在は正道会館の尼崎支部長。特に余計なことをしなくてもいい立場なのに、格闘家、武道家としての血がうずくから総合にも取り組んでいる。
そういう金の総合に対する姿勢は、田村戦でもよく表れていた。試合中、田村は何度もテイクダウンに成功しながら、満足な攻撃ができなかった。それは田村がだらしないという以上に、金が頑張ったということだ。簡単に寝技に持ち込まれることなく尻餅をついた姿勢で粘るだけ粘り、いざグラウンドで下になっても、オープンガードでしっかりと渡り合う。体力を消耗した試合後半こそクローズドガードを取る場面が多かったが、少なくとも前半戦の金はグラウンドでも堂々と“攻防”を展開していたのだ。最初のテイクダウンは自力で立ち上がってもいる。
最初のグラウンド戦で金が少しでも臆するようなところを見せれば、田村は勢いに乗って攻められたはずだ。だが金が真っ向から対抗してきたため、田村の計算は完全に狂ったんじゃないだろうか。試合後の田村は「寝技での締め付けが思った以上に強かった」と語っている。
そしてスタンドの攻防は、明らかに金のものだ。思い切った踏み込みから放ったボディへのヒザ、そのタイミングはまさに一級品だった。インローも単なる牽制ではない。ヒザ関節の内側、最も“効く”ポイントを的確に狙ったものである。つまりこの試合、内容で言えば“田村が負けた試合”ではなく“金が勝った試合”だったのである。
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『格闘技通信』8/23号のレポート(阿部裕幸氏)から。
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実際、(金が)テイクダウンされた際、レスリングでいうところのスイッチという形で田村選手の片足を持ち、それ以上の不利なポジションへの移行を防いでいる。
下になってからのガードワークについても、クロスガードから足手のことに足を置いたオープンガードにして、パンチを打ち、そして、またクローズドガードに戻して腕を抱えるディフェンスを行っていた。金選手は巧みにガードを使いながら、田村選手の動きを制していたのが印象的だった。
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2つのレポートでは“クローズドガード”に関する解釈がやや異なるが、グラウンドで上になった田村の攻撃を防ぐために金にかなりのテクニックがあったということ。
ファンも、そして田村も、「相手をタックルで倒す」ことができれば勝ちをたぐり寄せられると考えていた。さらに言うなら、田村は下になるとめっぽう弱いが、「上になってからの腕十字への移行」は常勝パターンのはずだった。ところが、どっこいそうではなかった。
当初田村側が考えた試合の“焦点”とは別のところ(グラウンドでの防御)で、金は技術を披露した。加えて、スタンドでは断然優位に進める。田村の「ひとつの型に入ると強い」を金の「うまい」が上回った試合。はたして田村は、同じような局面を迎えたときに打ち破れるような技術を身につけられるだろうか。
柴田勝頼。総合格闘技デビュー2戦目。プロレスラーとは因縁が深いグレイシー一族と対戦した。
▼第3試合=90キロ契約
×柴田勝頼(1R3分05秒、腕十字固め)ハレック・グレイシー○
※柴田は総合デビュー2戦目(通算1勝1敗)。ハレックは総合デビュー戦勝利
[試合経過]
この試合、最大の謎は、TKシザースが決まらなかったこと。マウントをとられて下になったとしても、もぐって(相手のお尻の方に胸を近づけて)しまえば、絶好のTKシザース射程距離になる。“理にかなった”動きをみせたように感じさせた柴田だが、実際はどうだったのか・・・。
携帯サイト週刊プロレスモバイル、7/19更新分、安西伸一氏「安西漂流記」から。
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ハレックは本当に純粋にグレイシー柔術の世界で純粋培養されてきたことを証明するかのように、クラシックなグレイシースタイルを披露した。打撃はまったくダメ。スタンドで間合いを詰められたら、パンチで柴田が勝つ可能性も充分に考えられた。ところがスタンドで組み付かれてからは、展開が一変。そこからはただの一度も柴田に主導権を渡すことなく、軽々とテイクダウン。そのままマウントを取った。この倒し方も、実に理にかなったものだった。これは決して力づくの倒し方ではない。しかも片足を外掛けにして倒しているので、すぐにマウントを取れている。ここからがグレイシーの真骨頂。脱力した体をやわらかい毛布のようにして、柴田の体をまず覆いこんだ。そしてマウントを取りながら、ハレックは尻を柴田の胸あたりの方まで持っていく。この位置になるとTKシザースがかかりやすいベストポジションなのだが、それでもハレックは下からの返しを許さなかった。
格通の取材で高阪に電話で話を聞くと、ハレックはこのとき、腹を出すようにして尻を引き、股関節で柴田の体を完璧に押さえ込んでいたんだという。これでは柴田は返せないし、もし返したとしても、その動きに合わせて、今度は腕十字かチョークを取られていたことだろう。
今風の総合の闘い方は、倒してからパウンド(グラウンドで上から打つ、顔面や頭部をつぶすようなパンチ)。あるいは打撃と組み技のいくつかを、つないで攻めていく闘い方が主流。でもハレックは、まるでタイムマシンで過去に連れて行ってくれたの如く、地味な基本を完璧に遂行する強さがあった。古くてもいいものいいのだ。
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『格闘技通信』8/23号のレポート(高阪剛氏)から。
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左四つに来たということは、ハレックは左利きなんじゃないですかね? でも、スタンドの構えを見ていると、ハレックはサウスポーじゃない。左足を前に出す、オーソドックス。おそらく組んでからのハレックの左の動きに、柴田は戸惑ったんじゃないかな。
マウントを取ってからの体重のかけ方もうまい! 自分がアブダビでジアン・マチャドと当たったときもそうだったんですけど、自分が下で動いても、それはもがいているだけで、動けば動くほど体力を消耗してしまう。ところが上のグレイシーにとっては、相手を「自分の中で回す」抑え方なんです。でも、MMAだから、動かないでいると顔面を殴られてしまう。だから動くしかないんです。
柴田はTKシザースにいける位置だったんですけど、ハレックはそこから腹を出して尻をキュッと引いて、股関節で抑え込むようにしていた。実はこれで抑え込みが完成している。柴田はこのときだけは相手が重く感じられたと思います。普通なら返される可能性のある危険な場所でハレックは闘っているのだから、ハレックの下半身の使い方の完成度が高いということです。
そして、シザースを狙って伸びている柴田の腕のワキに、ハレックは自分の股を差して、ワキが下に落ちないようにした。こうなったら、もう腕十字をセットした状態です。
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うーむ、なるほど。プロレスファンの頭では考えられないようなことを、何重にもハレックは仕掛けている。いや、自然にやっている、と言ったほうが正しいのか。
このハレックの抑え込みを返す方法はないのか。船木誠勝が解説する。
・ 「ファンともう一回、一緒に歳を取っていきたい」/船木誠勝インタビュー【前編】(HERO’S公式)
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大会が終わり家に帰ってから、もう何回もビデオで見ました。柴田は最初、すごく良かったんですよ。カウンターでパンチを合わせて、ちょっとグラつかせて。その後ですよね、「当てなきゃ! 当てなきゃ!」という気持ちがはやってしまった。ハレック選手は、体全体を使って、頭を下げて、逃げる人間の行き場をなくすかのように柴田をロープ際に追いつめていった。追いつめ方がすごくうまいなと思いましたね。
柴田は組み付かれてから、ハレック選手の頭を(アゴの下に)入れさせてしまったんです。それで、柴田の体が伸びてしまった。それだと力が入らないんで、柴田にはどっちかの手で(脇を)差してほしかった。そして、外掛けで倒された時も、倒された瞬間にマウントを取られてしまったので、もうちょっと冷静になっていれば、倒れた時にガードポジション、もしくはハーフガードを取れたはずなんです。それもできなかった。
マウントからの脱出も、両足で引っかけてという返し方をしていましたけど、もう2つ、3つ、違う脱出の方法を練習したんです。それも出せなかった。以上の反省点が見つかりましたね。
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いくつかの局面でのミスを船木は指摘した。されど、めくるめく展開の中でそういったミスをすることなく瞬時に判断し続けなければいけないのだから(しかも緊張感の中で)、柴田は大きな壁を感じてしまったんじゃないだろうか。
ただ、練習していたものの中で出せなかったこともあったという。まったく想定外だったわけではない点もあるのだから、これから身につけていく動きをバリエーションとして自然に出せるようにもっていけば、柴田が上昇気流に乗れる局面は必ず来るだろう。
以上、田村と柴田の闘い模様の分析を拾ってみた。
残念ながらこのような分析ができてしまうのは、“プロレスラー側”の技術が一本調子であるからだ。克服していくためには、様々なパターンを想定したトレーニングを重ねること、平行して得意パターンも磨くこと。シンプルだけれども、たいへんなこと。
どうなんだろう? 前田が「キャッチレスリングから入った」という自分たちとの経歴に伴う“有利さ”をときどき口にする。どこかでプロレスラーたちは、自分たちの理想の闘い方にこだわってしまう部分はあると思う。実はボクなんかもやっかいで、そこにプロレスラーがこだわる姿勢も好きなんだな。どんな闘いをしたいか、こだわらなきゃプロレスラーじゃない。でも、その思考回路が勝ちを妨げたりもするかもなぁ・・・頭の中でグルグル考えてしまったよ。
付記。『格闘技通信』が、前号あたりから“記者による試合レポートをやめました”状態を宣言している。テレビですでに放映された試合を、記者の目で浅く追っても雑誌の価値が出ないだろうという意図。これはいい企画だなぁ!
・ 格闘技通信 8月23日号
今回引用したのも一部抜粋に過ぎません。興味のある人は、今回のHERO’Sで気になった試合のレポートの立ち読みでもしてみてはいかがでしょうか。■□