PRIDE消滅 なにが最強のプロモーションを自滅させたのか?/書評
「タダシ☆タナカ+シュ-ト活字委員会」によるPRIDE崩壊を中心としたルポタージュも、いよいよこの作品で完結のようだ。
・ PRIDE消滅 なにが最強のプロモーションを自滅させたのか? [tanakatada014.krm] - 315円 : 武道・プロレス・格闘技 ファイト!ミルホンネット
タナカ氏というと、PRIDEと裏社会の結びつきというスキャンダルを『週刊現代』と組んで暴いたことで知られている。これが“PRIDEを潰した”(フジテレビ放映中止につながった)と多くのファンの反感を買っている。
この記事でタナカ氏は、“ヤバイ話にはフタを”してきた業界メディアに対して、ことごとくダメ出しをしている。
##
・ 週刊ファイトは「もちろん、暴力団との強い結びつきは褒められたものではない。だがそういったことは一般誌に任せておけばよいことで~」と宣言。ゴング格闘技も「PRIDE大逆転の鍵がアメリカである」という珍説を堂々と展開。
・ 多くの一般誌も五十歩百歩である。むしろ体制側の記者や、文化人を気取るエッセイストなどが、プロパガンダよろしく「どこの団体だって暴力団との付き合いはある」などと記していたのが現状だ。
・ 執筆者の常識を疑わざるを得ない。過去の歴史など関係ない。問われているのは現代社会の倫理観であり、程度問題なのだ。彼らは村上ファンドに出資した日銀・福井総裁に対して世論が「辞任」コールを叫んでいたのを知らないのか。福井は決して法を犯したわけではないのだ。
##
闇社会へのつながり自体が“裏切り”であるということのみならず、程度が度を過ぎている。だからこそ糾弾すべきこと。それが、タナカ氏にとってのPRIDE追及だということ。まずは、この当たり前を理解することが大切ではある。
では、“ヤバイ話”を扱わなかったことだけが業界メディアの問題だったのかというと、そうではない。
##
・ (フジテレビに契約解除された)榊原信行DSE代表取締役社長にとっての緊急経営課題は、半年以内に自主再建のメドをつけるか、遅くとも一年以内に身売りをするかである。この時点でPRIDEブランドは死んでいるのだから、「のれん代」に価値はなくなったと考えるべきだ。あとは選手契約と映像ライブラリー資産をいかに高く売却するかである。
・ UFCのオーナーであるホテル&カジノ王ロレンゾ・フェティータは07年3月27日、六本木アリーナにてPRIDE買収を高らかに宣言している。ババ抜きゲームの貧乏くじだったとも知らずにだ。無垢なファンには辛いことであろうが、採算最優先のアメリカ人経営者に、日本国内での新規イベント(予定ではライト級グランプリ)を期待するほうが間違いである。
・ ただし、例外はあろう。ソフトバンクからパチスロ・メーカーまで、スポンサーさえ数億円を広告費と割り切って捻出すれば、派手なプロ興行は立派に成立する。ところが表に出て執行部のお披露目会見を開くわけでも、スポンサーを接待するわけでもない米国人が管轄する残骸プロモーションPRIDE FC WORLDWIDE日本支社に、カネを出す物好きな企業があるわけがない。
・ 最大のネックは会社を買った側が、2006年から始まった急激なUFCブームの展開と対応に翻弄されて***できなかったことにある。***を***から迎えることなく、多忙を極めるダナ・ホワイト氏が***と述べた時点で、業界関係者は彼が積極運営する気がないことをはっきりと読み取っていた。
・ ズバリ、最初から「PRIDE再建」の意識はなかった。***が買収の目的であって、PRIDEブランドの扱い等あくまで二の次だったのだ。
・ スポーツ紙が「UFC・PRIDE連合軍」を見出しに使い、MMAスーパーボウル、ワールドシリーズの開催を謳っていたが大人のマニアは***であることを感じていた。
・ PRIDEブランドは死んでいるのだから、「***」というのは理屈としておかしいのだ。ところが専門誌コラムから熱心なファンによるブログに至るまで感情論がまかり通り、冷静な視点からの論評がされていない。
・ 常識で考えて、やくざの関与を報道されてフジから切られたブランドとスタッフを、いくらオーナーが変わったからと言って、他局が拾うことがあるわけがない。
・ 一部の格闘技ライターが、***などの名前を出して煽りに協力していたが、身売り価格の吊り上げにほかならない。
##
ひとつひとつの事実をかみくだいた列挙には圧倒されるし、PRIDE関連の情報に振り回されたボクらにとって「ああそうだったのか」と思える情報はすべてココにある。これについては、大量引用は気が引けるし、手間が物凄くかかる。だが“どういったレベルの内容が書かれているか”は手間をかけてでも当サイト読者には伝えたい! そういう葛藤から、今回は伏字を使ってみた(***は作品にすべて書いてある。それぞれ3文字というわけではありません)。
こういう情報整理や正しい指摘をやってくれないのが業界メディアであるとタナカ氏は記す(『週刊現代』や実話誌を除く)。まっとうな展望を提供できないことが活字メディアの後退を生んでいるとも説いた。
功罪あるんだろうが、業界メディアは団体から取材拒否されるのが怖いというのはもちろんある。そして、自分たちはマット上の出来事しか扱わないのだと“逃げる”。もちろん、業界メディアにとって取材拒否されることは死活問題だ。だけれども、取材拒否やむなしとして闘う姿勢も、程度の大小はあれ必要ではないだろうかと気づかされる。
将来の“大きな取材先”になるであろうかもしれぬUFCに対しても、業界メディアは噛み付けない。タナカ氏は記事の終盤でこう斬ってみせた。
##
・ UFCの日本でのイメージは失墜した。谷川貞治FEG社長の感想を引用するまでもなく、「格闘技ファンあってのビジネスなのに彼らを裏切った」からだ。
・ 選手を引き抜き、映像資産だけ手中に納めたというならまだ許される。しかし、悪魔と賭けしてブランドごと買ったのなら、ファンに対する説明責任はあろう。ところが「世界でもっとも知識豊かな総合ファン」を見捨てた代償で、UFCブランドに対する信頼が消えた。
##
PRIDE問題。何度も何度もボクらは踊らされてきた。ボクが書く記事に多少とも左右された読者の方もいたかもしれない。あるいは、冷静に客観視していた方もいたかもしれない。
ボクは強くはなれなかったなぁ。復活してほしいから、アヤシイ情報にもつい飛びつく。ふだん数行の記事やちょっとした見出しでゴハンが何杯でもおかわりできるくらいだ。
あと、怖いのもありました。「本当にクロじゃなかったとしても、疑惑を問われた以上、榊原氏は退任すべきだ」という意見も、なんとなく書いた気はするが、声高には出せなかった。誰かに目をつけられるんじゃないかとか、読者に嫌われるんじゃないかとか。
趣味でやっているブログでさえこうなんだから、仕事でやっているメディアの人はタイヘンに違いない。実際に、秋山成勲問題の扱いでファンからの信頼を失墜させたメディアもあった。
ただ、それで給料を稼いでいるのだ。ジャーナリズムをどうやって発揮するかは大きな課題となってくる。
流されそうになる。PRIDEを糾弾すると、PRIDE潰しに加担することになってしまう。短絡的にはそうだろう。だけれども、もしも、闇社会との結びつきからの脱却を宣言したPRIDE初代社長・森下氏(宣言直後に謎の自殺)をもっと問題視していたら。フジテレビショック直後に辞任しなかった榊原氏を批判してスグに辞めさせていたら。
アレを放置したから、闇社会との結びつきが拡大した。アレを放置したから、社会からの信頼失墜が加速した。そんなことがいっぱいあって、業界として自らを浄化できなかった。PRIDE潰しをやらなかったと短期的には思えたことが、実は最大のPRIDE潰しになってしまった。
ときどき実話誌や暴露ムック本が旗印にするジャーナリズム。イイカッコすんなよ!と思うこともあるが、確かに機能しないことでダメになっていく業界をボクらははっきり目撃してしまった。業界ぐるみでハマってしまった当たり前の結末・・・PRIDE問題を総括すると、そこにたどり着く。
ボクらは何のために記事を書いているんだろう。何のために記事を読んでいるんだろう。ボクなんか日本有数でニュース記事に踊らされている人間なんだが、いろいろ考えさせられる。悪い頭を時々はひねって、振り返る機会が必要なんである。
慣れ親しんだ業界メディアを読んで安心しているだけの自分が常にいる。だけれども、成長しない自分、深まらない自分に決別したくて、そのひとつとして突っ込んだ情報や分析をときどきこうやってタナカ氏のものからボクはもらうようにしている。25ページ以上の長編ルポルタージュ、iポッドで曲をダウンロードするくらいの手軽さの315円では安すぎる内容だと、ここにオススメしておきたい。
T.SAKAi■□[人気ブログランキングに参加中>> ]
事実誤認・誤字は左サイドバーのココログマーク下からメール→大変助かります。カクトウログへの苦情やご希望もお寄せください。