「武藤VS船木」で満員にならない全日本プロレス~メイン終了後に諏訪魔が“投げた”ものとは・・・?
9月10日、武藤敬司復帰戦。「今日はムトウ(6月10日=武藤)の日ならぬ、クトウ(苦闘)の日になるんだな」なんてオヤジギャグをつぶやきながら、ボクは後楽園ホールに向かっていた。
その大会。武藤はセミファイナルで船木誠勝と30分フルタイム。メインは新世代同士のタッグ対決が行われ、着地点のわかりづらい試合と試合後マイクに観客が野次を飛ばし、諏訪魔が観客にマイクを投げつけるという異常事態になる。
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マイク投げはプロレス者の間で事件として扱われた。
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投げたマイクが誰かの頭や目に当たっていたとしたら…。そんなことを考えるとゾッとする。行為はもちろん許されない。一方で、そこまでになった諏訪魔の葛藤にファンが共感したのも確か。諏訪魔は観客の前で感情をさらけ出した。
パッと思い出したシーンがあった。
以前にドームでの武藤敬司戦を控えた棚橋弘至が、後楽園ホールでシメようとしたとき「武藤に負けろ!」という野次が飛んだ。棚橋は胸を押さえ、永田裕志らまわりの選手が野次った方向をニラんで棚橋をなだめる。かくして、年明けのドームで棚橋は武藤を破り、そのままの勢いでプロレス年間MVPを獲得する。棚橋はそのとき、何かを乗り越えた。
ファンに認められる・認められないという瀬戸際で、諏訪魔は確かに苦しんでいる。だけれども、これを乗り越えたときに、新しいものがきっと見えてくる。そんな実感を込めて、速報観戦記を「これは、新・全日本プロレス生みの苦しみか!?」と結んだ。
現実はそんなに簡単なものではない。
この大会。セミファイナル前までは素晴らしい大会だった。いわゆる“いつもの攻防”というやつではなく、それぞれの選手が新しい持ち味や攻防を重ねていた。しばらくぶりの全日本プロレス生観戦、面白いじゃないか!?
セミファイナル。武藤VS船木のゴングが鳴ったのは、20時47分。大会前の予想は30分フルタイムだが、21時を目前として、それはないだろうと思った。勝とうが負けようが、武藤は短時間でも十分に見せられる技量を持っている。鈴木みのるが第1試合で短時間試合だったが、武藤はどうみせてくれるのか。期待は高なった。
ところが、ヒザ攻めに苦しむ様を武藤は延々と繰り広げる。感情表現が観客を手のひらに乗せていると言えば聞こえはいい。されどボクには苦し紛れのように見えた。関節技の種類を知っているマニアはまだ耐えられただろうが(それでもキツかったという感想も聞いた)、初心者は確実にウトウトしてしまう展開に。それでも、これがメインだったならば、充実感を持って観客は岐路につけただろう。
武藤がフルタイム闘い終わり、その後の24分に渡るメインの試合が終わり、諏訪魔らのマイクアピールが佳境に差し掛かったのが21時54分。
多くの観客にとって「武藤VS船木」を観にきたという意識はあれど、メインのカードをしっかりと認識したのは、おそらく会場に足を運んでから。先入観のなさは、試合内容が補ってくれるんだろう。観ているうちにどう感情移入すればいいかを教えてくれるんだろう。そんな心境だったはずだ。
試合は激しいものだった。激しさの矛先がどこに向いているかがわからなかった。“3カウントが途中で止まる”ことも、不可解さに拍車をかけた。
ガチだったのかもしれないが、マイク劇場が延々続くのにも腹が立った。ところが、いちばん腹を立てたのが諏訪魔本人というとんでもないオチが待っていた。本人たちが想定していない方法で、オチがついた。本当に興行はナマモノである。
マニア的にオチはついても、絶対に初心者はリピーターにはならない。そんな興行だった。
何が問題なのか。
単刀直入に言うと興行の仕切りが悪いということになる。ボクはセミ前までの試合で、十分な選手層と試合内容に感心した。「本当は恐ろしい全日本プロレス」がそこにはあった。
だけれども、それを生かしきれない仕切りの悪さ、アンコントロールな状態がある。この興行は、何を目立たせる大会なのか。事前に仕切って、「全員が全力を出し尽くす」ことを止めなきゃいけなかった。いや全力は出していないぜって選手は多かったと思う。それでも、もっと抑えないといけなかったのだ。唯一抑えた短時間決着で、かつ自分らしさも維持したのは鈴木みのるだけだった。
それぞれの選手がやりたい放題の大会の“しわ寄せ”としての“押した時間”“満腹感”を、なんで自分がシメないといけないんだ!? そんな意識が諏訪魔にあったんじゃないかと思う。さらには闘い抜いても、野次られる。そりゃ、全日本プロレスの舵取りそのものを“投げ”たくなる。
ひとつひとつの興行内の仕切りのみならず、武藤が得意なはずの“線”も、ここ最近は実に響いてこない。新日本とノアが“憎しみ”ではなく“高め合う”新路線の対抗戦をバシバシやっているだけに、相対的な刺激のなさが物足りなく映ってきていた。
鈴木VS河野による大阪府立の不入り。鈴木VS諏訪魔一本での両国強行(試合内容自体には光が見えた)。武藤敬司による新日本出張で築いた“気持ちのいい上から目線”も、鈴木みのるによる“力のプロレス”や“船木との因縁物語”も、そういった貯金は多くが吹っ飛んだ。
結果として、「武藤VS船木が後楽園ホールで観れる」というこの上ないシチュエーションをもってしても満員にならず。いま全日本プロレスとプロレスファンはスィングしていない。
野次というか観客のフォローに「諏訪魔は悪くない!」というものがあった。諏訪魔だけではなく、本質的に選手が悪くないというところにこの問題の難しさがある。全日本プロレスにブッカーがどう存在するかは知らないけれども、再浮上するには仕切り直しが必要だ。ものすごくわかりやすく、全日本を飛び出すことで“いい仕切り”を得て、新日本で再浮上している選手がいることもみんな知っている。
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