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2016.06.26

アントニオ猪木vsモハメド・アリ40周年~視聴者を揺るがした4オンスグローブ説はどこから来たのか

 丁寧にも、テレビ画面には4オンス(軽量)と10オンス(通常)の形状の違いが挿入された。6月12日のテレビ朝日『モハメド・アリ緊急追悼番組 蘇る伝説の死闘「猪木VSアリ」』。ヘビー級ボクサーが軽量グローブをつけて闘ったというアナウンスは、Twitterのタイムラインを染める。「素手に近い4オンスというアリの必死さはガチ」「猪木は寝て闘うしかなかった」という驚愕、納得、称賛。

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 本日は、制定されてから初回の「世界格闘技の日」。1976年6月26日の試合から40周年だ。

 当時は大凡戦と評されながらも、時が経って名勝負扱いされるアントニオ猪木vsモハメド・アリ。いわゆる「がんじがらめ(プロレス技禁止)のルール」と呼ばれる猪木不利の状況、常識外の4オンスグローブ装着含めた周辺情報が、試合の受け取り方を大きく補正する。

 40年前の一戦は、実に好意的に現代のファンに受け入れられた。

 一方で、少数ながら「画面を見れば8~10オンスのグローブ」「ヘビー級で4オンスはあり得ない」とのツッコミも出る。「4オンス」と言われることでグローブが小さいという先入観が形成されてはいまいか。自らを疑うことも必要だろう。読者の皆さんと一緒に写真で振り返りたい。(ことわりのないものは、集英社DVD『燃えろ! 新日本プロレス エクストラ 猪木VSアリ 伝説の異種格闘技戦』より)

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試合前控え室での様子。バンテージの様子は普通に見受けられる。

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そのバンテージ姿のまま入場してくるアリ。

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リング上でボクシンググローブを着用するアリ。形状は通常のものに見える。

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手の平側から見た様子。セコンドにグローブの紐を結ばせる段階。

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顔のかゆみをグローブでカキカキするアリ。ナックルパートの部分は細工(綿を抜いて薄くするなど)をしたようには見えない形状。EVERLASTのロゴも。

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別角度から。少なくとも「素手に近い」ものには見えない。

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ちなみにトランクスにも、スポンサーのEVERLASTのロゴ。アリがヘビー級であることも、グローブを小さく見せる。

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組みついて来た猪木に対してロープを掴みながら倒れまいとするアリ。このショットからもグローブのボリュームは確認できる。

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途中でグローブが入れ替わったことはないの? という方のためには、最終ラウンドまで異変はないことを補足したい。これは最終15Rに臨むアリ。

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アリの通常のボクシングでの試合グローブとの比較。大きさに遜色はない。(こちらはインターネット上の写真より)

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アリ追悼番組では左側の4オンスだとされたが、形状は右の10オンスに近い。(こちらは今回のアリ追悼番組より)

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市販の4オンスの例。グラッブリングのものなら4オンスは存在する。ちなみに重さの単位1オンス=28.3495グラム。(こちらはインターネット上の写真より)

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市販の4オンスの例。形状は猪木戦装着のものと同様だが、実は全体の大きさが小さい。子供用で「4オンスで5~10才位向けです」との告知。(こちらはインターネット上の写真より)


 いかがだろうか。猪木戦でアリが着けたグローブは4オンスではない、8オンス程度の通常のボクシンググローブと見なしてよいだろう。

 “4オンスだが特注で大きく見える”という可能性も、見た目に小さいグローブ選択を当初からアリがアピールしていたという経緯からして考えにくい。

 あまりに今回の番組で4オンスが強調されたばっかりに、テレ朝による後付けの猪木賛美との印象も確かにした。視聴者を揺るがした4オンスグローブ説はどこから来たのか。

 まずは試合の3か月前に、4オンスの予告ともとれるアリの発言があった。
・ 異種格闘技戦とは何か? 天使と野心家~アリ猪木40年目の解析 巌流島
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1976年3月25日、ニューヨーク・プラザホテルでの調印式、BENIHANAステーキで地元名士に上り詰めたロッキー青木がMC務める顔見世回、アリは「ボクシングで一番小さいグローブは6オンスだが、さらに小さい4オンスで闘ってやる」と述べている。
あまりの大凡戦に、米国側の当時の記者記事などが埋もれてしまったが、「アリの次戦が日本でプロレスラーとエキシビション」は、最初からアリ本人より約束され、現地のメディアもそう報道した。ところが集英社版DVDというか当時のテレ朝、「せいぜい一番小さなクラスのボクサー6人で十分だが、それに4人の女性を加えてやる」との、史上空前の珍訳テロップで誤魔化された史実をご存じだろうか?

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 もちろん、試合当日の放送自体(集英社からDVDとして発売)からもしっかりと“4オンス”情報が確認できる。

<アリ側の控え室リポート>

リポーター「テーブルの上にはですね、8オンスのグラブと、それから4オンスのグラブと、それからサンドバックを叩く薄いグラブがありますね(本部実況「1オンスですね」)そのバックグラブと(いうように)3種類のグラブが並んでます」(並んでいるグローブの映像はなし)

<リングインしてアリがグローブ装着>

アナウンサー「いまレポートが入りまして、グローブは4オンスをつけると。(アリの主張は)最初は4オンスということで、その次はベアナックル(素手)。そして1オンスの練習用のグローブ。最後はまた4オンスになりましたね」

解説者「4オンスのグローブを使う方がアリにとってもいいですよ。思い切って振っても、拳を壊しませんからね」

解説は後藤秀夫(元プロボクサー)、実況は舟橋慶一アナウンサー(『ワールドプロレスリング』初代アナ)。


 当日の実況の信憑性に疑念が生じる。テレビに映らなかった控え室での「8、4、1オンスのグローブ」というのは本当か。1オンスというのはかなり意味がわからない。4オンス選択に対しての「思い切って振っても、拳を壊しませんから」という解説にも、何か勘違いしているのではと思わせられる。

 天然なのか、事前・当日のアリ側の口車に乗せられたのか、意図的に操作したのかはわからない。されど、4オンス実況はこうして既成事実化していく。しっかりと実況やレポートされたものを疑ってかかることは心理上やりづらい。40年経ってからの現在のテレ朝スタッフも、ここを疑うこともなく4オンスを繰り返したのではないだろうか。

 プロとしての挑発、パフォーマンスの中で4オンスグローブをちらつかせたアリだったが、実際には8オンス程度の通常グローブで試合に挑んだ。それが事実だったのではないだろうか。

 ところで、猪木アリ戦には、真剣勝負とエキシビションの両説がある。この論争の面白いところは、「4オンス(素手同然)だからアリ本気で真剣勝負」「4オンス(殴ったら拳が壊れる)はアリの(本気で殴らないという)エキシビション宣言」という真逆の見方があるところ。

 4オンスという前提が崩れ、アリは通常のグローブで闘ったわけであるから、論争はグローブから離れて行われざるを得ない。

 アリ来日前の録音テープより(日本語訳は別冊宝島2468『プロレス真実の扉』)。
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 リアルというのは、ボクサーじゃない猪木は打たれるような賭けに出ず、床に寝転がり、レスラーじゃない俺も、レスリングの蹴りを食らったりしない…そして、ボクサーではない猪木は俺を倒せなかったことを恥じる必要はないし、レスラーじゃない俺も猪木に勝てなかったことを恥じる必要はない、ちっとも。
 だから、これから行われることになっているこの試合は…エキシビションだと観客に知っておいてもらわなくちゃならない…本当に危害を加えあったりしないということを…最初に考えられた企画の通りに。

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 よく“アリがエキシビションだと思ったまま来日した”というくだりでこのテープが取り上げられる。しかし、それよりも驚くのが、“猪木が寝転がって闘う(アリはパンチを放てないし、猪木もスタンドからは蹴らない)ことでお互いが相手を倒せないエキシビション”という試合のアウトラインを、来日前のアリ側が明確に描いていることだ。

 この試合アウトラインとは別に、「がんじがらめ(プロレス技禁止)のルール」があったというのが通説である。されど、当の新間寿氏がルールの存在を否定する発言を複数回しているから実にややこしい。
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猪木は先頃出版した本の中で猪木対アリ戦のルールについて触れて、そこでは、禁じ手のオンパレードになっているが、事実はまったく違う。実際のルールは「両者正々堂々と戦う」という前提で、急所への攻撃禁止、目の中に指を入れてはいけないなど、現在のプロレスでも当たり前のルールに過ぎなかった。それは今でも私が保存している書類を見れば一目瞭然だ。猪木が言う『がんじがらめのルール』などは存在しなかったのだ。(『アサヒ芸能』2002年1月31日号)

まあ、ルールは私が作ったんだろうけど、本当にどうしてこんなルールになっているのか、まったく覚えていない。確かにそのルールは発表されたのかもしれない。しかし、それは本当のルールではなかったんです。(中略)あのときマスコミ向けに発表した“最終ルール”というのはいわば実体のないものであって、通常の状態で合意したような正式なものではなかったんです。(別冊宝島2468『プロレス真実の扉』2016年6月)

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 アリ側が提案したアウトライン(来日後には禁止技の要求もあったのだろうと推察される)にそって闘うしかなく、されど猪木消極的との批判をかわすために事前にマスコミ用ルール文を一部に流布したものの、興味半減による視聴率ダウンは許されないから大っぴらな発表までは行われなかった。あくまで仮説だが、それが実際のところではなかったか。

 さりとて、お互いの攻撃が“入ってしまう”可能性はゼロではない。そのお互いへの信頼なき状態が、あの試合の緊張感を生んだというのが真相ではないかと思う。

 15年前のアリが猪木戦を振り返っている。コメディでも、不正でもなく、契約を順守したとアリは総括した。
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―――輝かしいキャリアの中で、汚点を残しかねない試合もありました。ある日本人との戦いがそうですが。
アリ「当時の私には金が必要だった。それがあの試合を受けた理由だが、同時にキャリアの最後の時期でもあった。600万ドルという魅力的なオファーを断る理由はなかった。あの試合は、一部の批評家たちが批判するようなコメディではない。スペクタクルは保障されていたし、私は不正をしていない。単に契約を順守しただけのことだ」(『Number』904 2016年6月発売)

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 まだ総合格闘技という概念がなかった時代の猪木-アリ戦の判定は引き分けに終わる。少なくとも打撃の手数では猪木が圧倒的だったわけだが、何をジャッジの基準としていたかは40年経っても全く聞こえてこない。
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新間氏「プロレスの遠藤がアリを勝ちとして、ボクシングの遠山が猪木の勝ちとした。そして中立のラーベルが引き分けにした。こんな裁定というのは、私からすれば神が舞い降りたとしか思えないですよ。」(別冊宝島2468『プロレス真実の扉』2016年6月)
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 神が舞い降りた結果を導いたジャッジ内容とその顔触れ。(別冊宝島2468『プロレス真実の扉』2016年6月から抜粋)
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【引き分け】ジーン・ラーベル:レフェリーを兼ねる。新日本プロレスに選手をブッキングしていたマイク・ラーベル(母がロサンゼルスで著名なボクシングのプロモーター)が弟ジーンを推薦。
【アリ勝ち】遠藤幸吉:テレ朝による推薦。元柔道家(四段)、プロレスラー。力道山と共に日本プロレスを創設。
【猪木勝ち】遠山甲:センタースポーツジム鈴木会長(新間氏の母校である中央大学の同級生)による紹介。ボクシング界の元トップレフェリーだが、ボクシングから実質追放状態。

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 引き分けという結果に向けて真剣に闘ったとも言われる奇妙な世紀の一戦は、いまもなお論争が続いている。

 業界の王者同士の対決。「4オンス」「がんじがらめのルール」といった言葉に端を発する錯覚ゲーム。加えて、試合を成り立たせるために考え出された“寝そべっての蹴り”が、のちの総合格闘技での戦法と符合してしまうという神展開。

 プロレス・格闘技を考えるエッセンスが十二分に詰まったこの試合は偉大すぎるし、格好の研究素材であることは間違いない。

 なお、この試合で蹴りを食らい続けた足にアリが血栓症を患い、猪木が右足を剥離骨折した。だから真剣勝負だったという見解もあるが、怪我と真剣勝負かどうかというのはまた別問題である。加えて、今回のアリ追悼番組で「(アリは)血栓症という重傷を負う。その結果2ヶ月後の世界戦中止」と伝えられたが、世界戦は予定通り行われている(番組の紹介は誤りである)ことも指摘しておきたい。


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